月光書房 ・ 申の刻 ・ 夕方
この巻について
申の刻。陽が西へ大きく傾き、影が長く伸びて、人も鳥も、それぞれの帰る場所へと向かいはじめる刻である。
この巻の十二編は、帰路と別れの物語だ。下校路のさよなら、金曜の夜行バス、定年の日の帰り道、牛を追う夕、復員兵の帰郷、河原の別れ、渡り鳥の旅立ち、村を去る旅の一座、店じまいの駄菓子屋、ホスピスの夕暮れ、暖簾をおろす老舗、そして日を海へ送る者――。
茜から朱へ、朱から藍へと空が移ろうころ、暮れゆく西の低くに、宵の一番星のように、蒼いミラ彗星がひとつ、尾を引いて昇る。別れとは、いつも、いちばん美しい光のなかで訪れる。