月光書房
申の刻 ・ 夕方 ・ 帰路・別れ

帰路の物語

陽が西へ傾き、影が長く伸びる刻。人も鳥も、それぞれの帰る場所へ――帰路と別れをめぐる十二編。

この巻について十二をつなぐ符牒
目次 ・ 十二の物語
第一話

ラムネの玉の音

児童

夕焼けの下校路、駄菓子屋と分かれ道。転校する友だちと交わす最後の「またあした」と、片っぽずつ分けた手袋の約束。

夕木 あかね約26頁
第二話

金曜日の傾き

現代・家族

単身赴任の父が二月ぶりに乗る帰省の夜行バス。茜の車窓に蒼い彗星が滲み、母への青いマッチと、娘の片手袋が、離れて暮らす家族の情をそっと結ぶ。

里見 修約27頁
第三話

定時のチャイム

ヒューマンドラマ

定年退職の日の夕暮れ。片づけた抽斗の奥から現れた、四十年前の片方だけの手袋。誇りと寂しさの入りまじる、いつもの、けれど二度とない帰り道の物語。

納谷 誠約26頁
第四話

鈴の音、帰る道

労働・自然

夕暮れの高原、牛を厩へ追う老牧夫。一頭の老牛の最後の夏に、五十年の土と獣と、亡き妻の口笛が寄り添う。

牧野 草平約26頁
第五話

火の見櫓

歴史

復員して焼け跡の故郷へ還った男。待つ者はいるのか。戦友の片方の手袋と、茜の空にめぐる蒼い星が、生き残った者の帰路を照らす。

遠見 恒約25頁
第六話

さがした記憶

恋愛

三年と四か月の恋の、最後の夕方。責めも泣きもせず、河原と駅のホームで、渡せなかった手袋と言葉を、静かに分け合う二人。茜から藍へ暮れる空に、蒼い星が一度だけ尾を引く。

河瀬 佳約26頁
第七話

渡りの夕暮れ

自然・動物

生まれた沼を茜の夕暮れに旅立つ渡り雁の群れ。力尽きる仲間、遅れる一羽、それでも進む荘厳な帰路を、蒼い彗星が導く。

鳥飼 千尋約26頁
第八話

幟の影

時代・旅芸人

祭りを終え夕暮れに村を発つ旅の一座。芽生えた情も根を張れぬ暮らし。母なき少女がくれた片方だけの手袋を懐に、役者は茜の空の蒼い星を仰ぐ。

車谷 夕介約25頁
第九話

飴の匂いのする夕暮れ

情話

今日で閉める駄菓子屋。最後の子らを見送った老店主は、暮れゆく店で、六十年の歳月と静かに別れる。茜の空に蒼い彗星が一度だけ光る、しみじみとした閉店の一夜。

甘利 みつ約25頁
第十話

残された左手

終末・情話

夕陽の満ちるホスピスの窓辺。母が七十年抱えた片方だけの手袋と子守唄が、いちばん長い影の刻に、静かに対になる。

安曇 夕子約27頁
第十一話

暖簾の重さ

商店・別れ

三代続いた豆腐屋の最後の営業日。常連との別れ、染みついた匂い、暖簾の重み。夕空にミラ彗星が蒼い尾を引くとき、老主人は継がなかった息子と火を灯す。

暮田 三郎約26頁
第十二話

日を送る渚

寓話

毎夕、西の海へ日を沈める者。ある夕、別れたくない誰かのため日を留めてと願う者と出会う。留めることと送ることをめぐる、荘厳で切ない夕暮れの寓話。

落合 茜介約26頁
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