月光書房 ・ 酉の刻 ・ 黄昏
この巻について
酉の刻。昼と夜が入れ替わる、逢魔が時(おうまがとき)。ものの輪郭が藍色に溶け、人か、人ならぬものか、見分けのつかなくなる境界の刻である。
この巻の十二編は、たそがれの出会いと変容の物語だ。橋の上のもう一人の自分、消えた人のいる路地、人に化けるあやかし、絵の中から見つめる女、浜辺で還っていく者、数えると一人多い子どもたち、同じ車内の未来の自分、二つの顔、渡れば別の町、写真に写り込む人、鳴るはずのない電話、昼と夜の境の門番――。
暮れゆく藍の空には、逢魔が時の徴(しるし)のように、蒼いミラ彗星がいちばんに昇る。境界のこの刻にだけ、私たちは、失ったものと、なりえたかもしれない自分に、ほんの少しだけ出会うことができる。