月光書房 ・ 丑の刻 ・ 丑三つ時
この巻について
丑の刻。草木も眠るという、夜のいちばん奥。この世とあの世の境が、一日でいちばん薄くなる刻――丑三つ時である。
この巻の十二編は、怪異と境界の物語だ。足音の渡る家、合わせ鏡の奥、雨の峠、消灯後の病棟、止まった柱時計、田の畦の送り提灯、子の枕上に立つ者、終電のあとの踏切、井戸の底の声、丑の刻参りの杜、鳴るはずのない内線、夢の岸辺――。
けれど、ここに、ただ怖いだけの話は一つもない。どの怪異の底にも、断ち切れぬ情と、送れなかった別れと、それでも差しのべられる救いがある。いちばん深い闇のなか、この世とあの世の境の上に、蒼いミラ彗星がひとつ、静かに懸かっている。
――そうして夜は、この深みから、また夜明け前へと巡ってゆく。十二の刻が、こうしてひとめぐりする。