月光書房 ・ 卯の刻 ・ 明け方
この巻について
卯の刻。東の空が白みはじめる、一日でいちばんやわらかな光の刻である。
この巻の十二編は、さまざまな「目覚め」と「始まり」を描く。夜のあいだに生まれ出る命と、間に合わなかった命。三年の眠りからの帰還。殻を破って光を見る雛。徹夜の果てにほどける問い。始発を前に去るか留まるかを決めかねる逃亡者。上京の朝の心細さ。年に一度、明け方だけ帰ってくる死者――。
どれも、長い夜のあとに訪れる、最初のひとすじの光の物語だ。夜のあいだ空にかかっていたミラ彗星が、朝の明るさに溶けて消えていくころ、それぞれの登場人物が、まだ誰も歩いていない一日へ、そっと一歩を踏み出す。