潮のちょうつがい
ヒューマンドラマ・産科夜勤の産科病棟。明け方、老練な助産師は同じ手のひらで、生まれ来る命と、間に合わなかった命の両方に触れる。迎えることと見送ることが一つになる刻。
露のなかの森
自然童話冬眠から覚めた小さなヤマネ。失われた木、いなくなった仲間。それでも露光る早春の朝、ヤマネは変化を受けいれ、あたらしい森の光へ一歩を踏みだす。
明け方のひとつ
市井・情話午前四時に窯へ火を入れる坂の途中のパン屋。夜明け前だけ現れる訳ありの客に、無口な職人は毎朝ひとつだけ丸パンを焼く。湯気の向こうで、客の事情と職人の失ったものがほどけてゆく。
白い呼吸
ヒューマン・ミステリ三年の昏睡から明け方に目覚めた男。変わった家族と、片方だけの手袋がたどる、喪失と再生の静かな謎。
雷鳥の朝
冒険・サバイバル吹雪の稜線で遭難した単独行の登山者が、蒼白い彗星と一羽の雷鳥に導かれ、死の眠気に抗いながら最初の朝の光を迎える。
戻りの刻
マジックリアリズム年に一度、明け方だけ死者が帰る山村。母を亡くした子が、囲炉裏の火を守りながら母を見送りつづける、幻想と別れの一夜。
明け方の缶コーヒー
青春夜行バスで上京した十八歳の透。見知らぬ巨大な街で迎える最初の夜明けに、コンビニの光と一人の店員が寄り添う。心細さと高鳴りの、はじまりの朝。
露と鉄
歴史・反戦砲声のやんだ明け方、二つの塹壕のあいだで若い兵と敵兵が手袋を返しあう。露が光り、子守唄が渡る、束の間の休戦の物語。
終着の露
鉄道・情話夜通し走ってきた夜行〈しののめ〉が明け方の終着駅へ着く。眠らぬ乗客たちの一夜と、露光る朝の別れを、三十年勤めた車掌が見送る。
始発前
サスペンス夜通し逃げた男が、始発を待つ無人駅で最後の選択を迫られる。消えゆく彗星と老人の子守唄が、夜明けの決断へと導く一夜の物語。
殻を割る朝
童話・生きものの視点暗く狭い殻の底で、光をさがす雛。はじめて見た空に消えゆく蒼い星と、親鳥の子守唄。生まれることの怖さと歓びを描く、明け方の生の讃歌。
海はなかった
知的ドラマ十四年解けなかった証明が、疲れ果てた夜明けに、消えゆく彗星をヒントにふいにほどける。発見の孤独な歓喜と、その先の澄んだ静けさを描く一編。