月光書房 ・ 辰の刻 ・ 朝
この巻について
辰の刻。陽が地平を離れ、露が乾き、町という町が音を立てて動きだす刻である。
この巻の十二編は、それぞれの「出立」を描く。満員電車のなかへ、最後の漁へ、初めての教室へ、せり場へ、奉公へ、射点へ、執行の房へ、朝の社(やしろ)の掃除へ、砂の海へ、空っぽになった家から、手術室へ――そして、世界でいちばん最初の朝そのものへ。
夜明けに空を渡っていたミラ彗星が、昇る陽にほどけて見えなくなるころ、人はみな、まだ何が起こるとも知れない一日の、それぞれの持ち場へと歩き出す。仕事が始まり、別れがあり、始まりがある。朝とは、名もない決意の刻なのだ。