七時四十二分の手
現代・群像朝の満員電車。倒れかけた老人へ伸びた幾つもの手が、匿名の車内に一瞬の連帯を灯す群像の一編。
舫い
海・労働引退を決めた老漁師の最後の出漁。網を積み、海へ出る朝、亡き相棒の片方の手袋を海へ返し、跡継ぎへ無言で受け渡す。
あかえんぴつの音
児童・青春転校生みなみの初登校の朝。忘れた赤えんぴつを、隣の席の子が黙って貸してくれる。その小さな「ことん」で世界がやわらぐ物語。
桜鯛の朝
市井・活気初せりに立つ若い仲買人が、桜鯛一尾をめぐり市場の主・老権蔵と火花を散らし、認められる、朝の物語。
竈の火
時代・家族奉公へ発つ朝。母が握らせる片方だけの赤い手袋と、灰の底で待つ埋み火。十二の娘が家を離れる、始まりの切なさを描く一編。
最後の朝の重力
SF・現代打ち上げの朝、宇宙飛行士は地球最後の朝の光を吸う。娘のマッチ、子守唄、消えゆく彗星。恐れと使命を抱え、母は暗い海へ出立する。
鍵の重さ
重厚・倫理死刑執行に初めて立ち会う若い刑務官。最後の朝、囚人が口ずさむ子守唄と、高窓に消えゆく蒼い星。断罪でも赦しでもなく、担いつづける掌の重さを描く。
手水の音
静謐・情話夜明けの社を掃き清める宮司のもとへ、母とけんかして家を出た女がひとり。片方だけの手袋と、消えゆく彗星と、祝詞の底に沈む子守唄。言葉少なな朝の、小さな救いの物語。
水を汲む刻
ファンタジー・冒険緑洲を発ち砂の海へ。若い駱駝曳きが渡り星ミラと青いマッチを頼りに、掟と別離を越えて七日の旅を渡りきる。
ここで、いっしょに暮らしました
家族ドラマ六十年暮らした家を出る引っ越しの朝。空っぽの部屋の反響、壁の日焼け、柱の傷。荷の隅から出た片方だけの手袋を、老いた母は光の窓辺に置いていく。
鶴を折る朝
医療サスペンス難手術の朝、九歳の心臓に手を入れる老外科医。技と祈りのあわいで、子の折った不格好な鶴が飛ぶ。明け方の蒼い彗星が溶ける刻の物語。
見よ、まだ、いる
創世寓話ずっと夜だった最初の世界。目を全部あけて生まれた娘が、代償に己の目を置いて、みなに初めての朝を渡す寓話。