月光書房
辰の刻 ・ 朝 ・ 出立・仕事始め

出立の物語

陽が昇り、人も町も動きだす刻。それぞれの持ち場へ発つ――出立と仕事始めの十二編。

この巻について十二をつなぐ符牒
目次 ・ 十二の物語
第一話

七時四十二分の手

現代・群像

朝の満員電車。倒れかけた老人へ伸びた幾つもの手が、匿名の車内に一瞬の連帯を灯す群像の一編。

三雲 怜子約28頁
第二話

舫い

海・労働

引退を決めた老漁師の最後の出漁。網を積み、海へ出る朝、亡き相棒の片方の手袋を海へ返し、跡継ぎへ無言で受け渡す。

戸田 冬吾約25頁
第三話

あかえんぴつの音

児童・青春

転校生みなみの初登校の朝。忘れた赤えんぴつを、隣の席の子が黙って貸してくれる。その小さな「ことん」で世界がやわらぐ物語。

穂村 なずな約26頁
第四話

桜鯛の朝

市井・活気

初せりに立つ若い仲買人が、桜鯛一尾をめぐり市場の主・老権蔵と火花を散らし、認められる、朝の物語。

魚住 清約26頁
第五話

竈の火

時代・家族

奉公へ発つ朝。母が握らせる片方だけの赤い手袋と、灰の底で待つ埋み火。十二の娘が家を離れる、始まりの切なさを描く一編。

柏木 かなえ約26頁
第六話

最後の朝の重力

SF・現代

打ち上げの朝、宇宙飛行士は地球最後の朝の光を吸う。娘のマッチ、子守唄、消えゆく彗星。恐れと使命を抱え、母は暗い海へ出立する。

天羽 環那約26頁
第七話

鍵の重さ

重厚・倫理

死刑執行に初めて立ち会う若い刑務官。最後の朝、囚人が口ずさむ子守唄と、高窓に消えゆく蒼い星。断罪でも赦しでもなく、担いつづける掌の重さを描く。

室生 護約25頁
第八話

手水の音

静謐・情話

夜明けの社を掃き清める宮司のもとへ、母とけんかして家を出た女がひとり。片方だけの手袋と、消えゆく彗星と、祝詞の底に沈む子守唄。言葉少なな朝の、小さな救いの物語。

神谷 巴約27頁
第九話

水を汲む刻

ファンタジー・冒険

緑洲を発ち砂の海へ。若い駱駝曳きが渡り星ミラと青いマッチを頼りに、掟と別離を越えて七日の旅を渡りきる。

砂野 由約26頁
第十話

ここで、いっしょに暮らしました

家族ドラマ

六十年暮らした家を出る引っ越しの朝。空っぽの部屋の反響、壁の日焼け、柱の傷。荷の隅から出た片方だけの手袋を、老いた母は光の窓辺に置いていく。

青柳 実約25頁
第十一話

鶴を折る朝

医療サスペンス

難手術の朝、九歳の心臓に手を入れる老外科医。技と祈りのあわいで、子の折った不格好な鶴が飛ぶ。明け方の蒼い彗星が溶ける刻の物語。

鷺沼 玲子約26頁
第十二話

見よ、まだ、いる

創世寓話

ずっと夜だった最初の世界。目を全部あけて生まれた娘が、代償に己の目を置いて、みなに初めての朝を渡す寓話。

宵待 詩約26頁
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