月光書房
月光書房 ・ 亥の刻 ・ 夜

十二をつなぐ符牒

十二の物語は、それぞれ独立した一編として読めるように書かれている。けれど、注意ぶかい読者なら、巻をまたいで顔を出すいくつかの「符牒(ふちょう)」に気づいたはずだ。ここでは、その糸を少しだけほどいておく。まだ読んでいない物語がある人は、どうか先に頁を閉じて——。

ミラ彗星

すべての夜空に、一度だけ、蒼白い長い尾を引いて横切る星。遠い未来の船窓からも、江戸の屋根の上にも、湖の水面にも、同じ星が映る。長く忘れられていたものが、また巡ってきた——どの物語も、その気配の中で大きく動きだす。十二の異なる時代と世界が、ただ一つの星空の下にあることの、しるし。

月光堂の青いマッチ箱

三日月が刻印された、深い藍色のマッチ箱。火をともすための、ささやかな道具。卓の隅に、ポケットの底に、灰皿のかたわらに——そっと置かれているのを見つけたら、その火が、だれかの大切なひとつの場面を照らしている。

子守唄

「眠れ、眠れ、星が海をわたるまで」。だれかが口ずさみ、だれかが思い出し、どこかから聞こえてくる、たった一節の唄。歌い手も、聞き手も、時代もちがう。それでも同じ旋律が、物語から物語へと手わたされていく。

月光書房

彗星の見える夜にだけ路地の奥に現れ、朝には消えている古書店。この本そのものが、その棚から借りた十二冊である——というのが、表向きの約束ごと。物語のいくつかには、その店がほんの一瞬、姿を見せている。

片方だけの手袋

対になるはずのものが、片方だけ残されている。失われたもの、置いていかれたもの、待っているもの。小さな喪失のかたちとして、いくつかの物語の隅に置かれている。

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下の表は、それぞれの物語に、どの符牒が織り込まれているかの早見表。読み返すときの、ささやかな地図に。

物語ミラ彗星月光堂のマッチ子守唄月光書房片方の手袋
第一話 灯を絶やすな●●●●●
第二話 もう一度だけ灯る提灯●●●●●
第三話 離れの密室●●●●●
第四話 まだ存在しない国の地図●●●●●
第五話 十三番目の周波数●●●·●
第六話 うるう日の恋人●●●●·
第七話 止まった時計と弟子●●●●●
第八話 水底の手袋●●●●●
第九話 月を釣ろうとした狐●●●●·
第十話 訳されたし●●●●●
第十一話 記憶が降る町●●●●●
第十二話 編まれない夢●●●●●
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