待つという字
文芸ミステリ二人称「あなた」終電で見知らぬ無人駅に降りたあなたを、灯りひとつが待っていた。忘れた一夜と片方の手袋が、彗星の下でほどけてゆく。
灯のもとを過ぎるもの
都市・時間叙情物(街灯)の視点交差点に八十年立つ一本の街灯が、最後の灯が尽きる夜までに見送ってきた、無数の出会いと別れを語る。最後に照らすのは、星の渡る空の下で子守唄を歌う母と子。
天井の隅から
幽霊譚・死者の側死者の視点三日前に死んだ指物師が、自宅の通夜を天井の隅から見守る。言えなかった「ありがとう」と、片方だけ隠した手袋を心残りに、彼はまだ行けない。
沖膳
民俗・共同体一人称複数「わたしたち」海に消えた一人を六十年待つ漁村。彗星の夜、沖に浮かぶ小舟の影を村は見る。待つとは何かを問い直す、合唱のような物語。
ふたつの匂い
情話動物(老猫)の視点岬の灯台守と暮らす老猫が、ことばではなく匂いと温度で老人の最期を察してゆく。海の上を彗星がわたる、見送りの一夜の物語。
最後の灯がともる夜
時代横断・叙情場所(映画館)の視点閉館の決まった場末の映画館が、内で生きられた無数の夜を語る。最後の客が片方だけの手袋を置いていく一夜、天窓を蒼白い尾が横切る。
星が海をわたるまで
ミステリ・感情時間逆行(逆年代記)父を見送った夜から、二人だけの歳月を一場面ずつ遡る。終わりが、いちばんはじめの夜へとつながってゆく。
ハルバ断片群註解 ――彗星の夜の復元
アーカイブSF未来の研究者の註解数百年後の学者が、滅びた都市ハルバの最後の一夜を、矛盾し欠落した紙片から復元してゆく。考証の隙間に、抑えきれぬ私情がにじむ。
灯、あるいは未定義事象の記録
近未来機械(管理AI)の視点深夜の高層ビル。管理AI「灯」は温度と音と電力の合間に、定義できぬものを記録する。涙、迷子、青い尾の星。規定にない動作を、ただ一度。
雪夜の証言
文芸ミステリ多声(羅生門型・五つの証言)雪の橋の上の小さな別れを、宿の女将、酒場の親仁、薬売り、女、そして古書店の主が順に証言する。誰も嘘をつかぬのに像は結ばず、最後の声でやさしい真実が浮かぶ。
大切な人を見送るための手引き
実験・情話取扱説明書の形式大切な人を見送る手順書。指示の裂け目から、二つの喪失を抱えた書き手の悲しみが静かに立ちあがる。
記憶のいい人
心理サスペンス信頼できない語り手妹を失った優しい姉が静かに語る回想。だが繰り返される矛盾と避けられる一語から、彗星の夜の真実が立ちあがる。