月光書房
巳の刻 ・ 昼前 ・ 市井の日常

市井の物語

朝の慌ただしさが一段落し、町がゆるやかに動く刻。銭湯、八百屋、床屋、公園――名もない人々の、小さくかけがえのない十二の一齣。

この巻について十二をつなぐ符牒
目次 ・ 十二の物語
第一話

湯気の柱

市井・情話

昼前の空いた銭湯。番台の老女将が、来ない常連を待ちながら、旅の女の背中を湯で流す。湯気とタイルに宿る、下町の人情と六十年の記憶。

湯浅 千鶴約26頁
第二話

大根の白

市井・家族

昼前の八百屋の店先。値切る常連、すの入った大根、母娘のあいだで言えなかった思いが、大根一本を挟んでそっと通う。

青木 志乃約25頁
第三話

鋏の言葉

市井・会話劇

昼前の古い理髪店。二十年通う老客が「今日で最後」と告げる。鋏の音と鏡の静けさに託された、時間と別れの一齣。

千賀 静麻約25頁
第四話

空いた席

市井・老い

昼前の公園、いつもの将棋盤。四十年通う常連の一人が、今日は来ない。盤を挟んだ長年の友情と、老いと、来なくなるということ。

老松 榧介約26頁
第五話

水の匂い

市井・情話

昼前の小さな花屋。供花を買う老婦人、告白の花束を選ぶ若者、百円玉を握る少女。花を選ぶ手に映る、名もない人々の情と、水の匂いのする一日。

花岡 万里子約25頁
第六話

砂のあたたかくなるころ

児童・保育

昼前の保育園。母を待って泣きやまない菜々ちゃんが握るのは、片方だけの手袋。若い保育士が受けとめる、なんでもない、けれどかけがえのない一齣。

若菜 みのり約25頁
第七話

南の窓の白い光

市井・人情

昼前の町角の交番。届いた片方だけの白い手袋をめぐり、若い巡査と町の人々の暮らしが、そっと交わる一日の人情噺。

辻堂 律約26頁
第八話

はざまの刻

市井・群像

昼前の小さな診療所の待合室。年寄り、眠れぬ若者、赤ん坊を抱く母。見知らぬ者どうしが、順番を待つあいだに、そっと交わす気遣いの物語。

蓮見 志津約25頁
第九話

湯気の相棒

市井・青春

老舗蕎麦屋の見習いが、岡持ちを載せた自転車で下町を巡る昼前。一杯の蕎麦を運ぶ道々の出会いに、青年が確かな一日の手ごたえを見出す。

更科 灯里約25頁
第十話

縁側の陽だまり

市井・日常

昼前の縁側、洗濯物と眠る猫とラジオ。そこへ行商が訪れ、七十年ぶりの幼なじみと、片方ずつの赤い手袋が再びそろう。

庭田 しづ江約25頁
第十一話

飴色の仕事箱

市井・骨董

堀切の骨董市。がらくたの山の底から出た、歌口だけあいた篠笛の仕事箱。五百円の値の外側で、五十年ぶりに父と娘の時間がつながる、埃と情の一齣。

蔵前 万作約25頁
第十二話

二種類の音

寓話

せっせと働く勤助と、丘で歌う歌吉。蟻とキリギリスを裏返す、昼前の畑のやさしい寓話。鍬の音と歌が、やがてひとつに交わる。

種田 耕平約27頁
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