湯気の柱
市井・情話昼前の空いた銭湯。番台の老女将が、来ない常連を待ちながら、旅の女の背中を湯で流す。湯気とタイルに宿る、下町の人情と六十年の記憶。
大根の白
市井・家族昼前の八百屋の店先。値切る常連、すの入った大根、母娘のあいだで言えなかった思いが、大根一本を挟んでそっと通う。
鋏の言葉
市井・会話劇昼前の古い理髪店。二十年通う老客が「今日で最後」と告げる。鋏の音と鏡の静けさに託された、時間と別れの一齣。
空いた席
市井・老い昼前の公園、いつもの将棋盤。四十年通う常連の一人が、今日は来ない。盤を挟んだ長年の友情と、老いと、来なくなるということ。
水の匂い
市井・情話昼前の小さな花屋。供花を買う老婦人、告白の花束を選ぶ若者、百円玉を握る少女。花を選ぶ手に映る、名もない人々の情と、水の匂いのする一日。
砂のあたたかくなるころ
児童・保育昼前の保育園。母を待って泣きやまない菜々ちゃんが握るのは、片方だけの手袋。若い保育士が受けとめる、なんでもない、けれどかけがえのない一齣。
南の窓の白い光
市井・人情昼前の町角の交番。届いた片方だけの白い手袋をめぐり、若い巡査と町の人々の暮らしが、そっと交わる一日の人情噺。
はざまの刻
市井・群像昼前の小さな診療所の待合室。年寄り、眠れぬ若者、赤ん坊を抱く母。見知らぬ者どうしが、順番を待つあいだに、そっと交わす気遣いの物語。
湯気の相棒
市井・青春老舗蕎麦屋の見習いが、岡持ちを載せた自転車で下町を巡る昼前。一杯の蕎麦を運ぶ道々の出会いに、青年が確かな一日の手ごたえを見出す。
縁側の陽だまり
市井・日常昼前の縁側、洗濯物と眠る猫とラジオ。そこへ行商が訪れ、七十年ぶりの幼なじみと、片方ずつの赤い手袋が再びそろう。
飴色の仕事箱
市井・骨董堀切の骨董市。がらくたの山の底から出た、歌口だけあいた篠笛の仕事箱。五百円の値の外側で、五十年ぶりに父と娘の時間がつながる、埃と情の一齣。
二種類の音
寓話せっせと働く勤助と、丘で歌う歌吉。蟻とキリギリスを裏返す、昼前の畑のやさしい寓話。鍬の音と歌が、やがてひとつに交わる。